がんになったら、どのくらいお金がかかるのか、収入はどうなるのか、経済的な心配事も出てきます。
さまざまな支援制度がありますが、収入やお住いの地域によって利用可能な制度は異なります。
医療ソーシャルワーカーなど専門家にも相談しながら、ご自分が利用できる制度を理解し、安心して治療に臨めるようにしていきましょう。
今回は、主な公的な助成制度について紹介します。
がんの治療で必要なお金
がんの治療では、治療費や入院費用など治療に直接かかる費用と、通院にかかる交通費などの間接的にかかる費用があります。
- 直接的な費用
- 治療費、入院費 など
- 間接的な費用
- 通院のための交通費、入院時の身のまわり品の購入費、食事代、ウイッグの購入費、ストーマの交換用具 など
がんの標準治療にかかる費用の多くは公的医療保険が適応となりますが、先進医療など一部の治療費は公的医療保険が適応にならないものもあります。
一方で、公的医療保険が適応にならない先進医療に関する費用や間接的にかかる費用の一部は、医療費控除の対象になるものもあります。
治療を始める前に知っておきたい制度
高額療養費制度
高額療養費制度は、医療機関や薬局窓口で支払った金額が、ひと月(1日から月末)で上限額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた金額分が払い戻しされる制度です。自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。
[69歳以下で年収が約370~770万円の方の例]
100万円の医療費で、
窓口負担(3割)が30万円かかる場合
この例によれば、実際の窓口でのお支払額は
87,430円となります。
治療を始める前に、ご加入の健康保険に「限度額適用認定証」を申請しておくと、窓口の支払額が限度額までになり、高額な医療費の一時的な負担や払い戻し手続きが不要になります。
詳しくは、ご加入の健康保険組合又はお住まいの自治体窓口にお問い合わせください。
経済的に患者さんを支える制度
婦人科がんの治療が始まると、通院や入院に伴い休職が必要な場合があります。そのため、収入が減ってしまうことによる経済的な心配事が生じてきます。
日本では、高額療養費制度など医療費の負担を軽くするための公的な制度や、傷病手当金などの生活を支える制度、介護保険制度など、がん患者さんが利用可能な支援制度がいくつかあります(表)。
表 がん患者さんが利用できる可能性がある制度
傷病手当金
会社員や公務員が病気やけがのために会社を休み、会社から十分な給与が受けられない場合に健康保険から支給されます。
なお、退職していても以下の条件を満たせば傷病手当金を受け取ることができます。
条件①退職前までに健康保険に加入していた期間が1年以上ある
条件②退職前までに傷病手当金を受給している、もしくは、受けられる条件を満たしていた
詳しくは、ご加入の(退職された方は加入していた)健康保険組合にお問い合わせください。
【参考】「がんになっても:傷病手当金」
障害年金
病気やけがによって生活や仕事などに支障が出た場合に、若い世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
障害の原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けたときに加入している年金によって種類が異なります。
【参考】「がんになっても:障害年金」
障害手当金
障害厚生年金の3級の障害よりやや程度の軽い障害が残ったときに支給される一時金です。
障害年金との違いは、障害手当金は年金ではなく、支払われるのは一時金であるという点です。
【参考】「がんになっても:障害手当金」
- 山﨑知子編「まず知っておきたい! がん治療のお金、医療サービス事典」、全日本病院出版会、2021年:p53-59 より作成
利用できる制度は、家庭状況、収入、障害の有無などによって変わります。
どの制度が使えるか分からないときは、通院している病院のがん相談支援センターなどの窓口で相談してみましょう。
また、ご自分が利用できるかもしれない制度を確認したい方は、「がんになっても:がん支援制度かんたんチェック」をご活用ください。
他にも知っておきたい支援制度
- 身体障害者手帳
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身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づき、身体に障害が残った方の日常生活の不自由を補うために、さまざまな助成や支援を受けられる制度です。
婦人科がんの場合、人工肛門や人工膀胱(ストーマ)を造設した方や、身体が不自由な方などが対象となる場合があります。
受けられる主な支援:
医療費の助成、ストーマ装具購入時の助成、公共交通機関の運賃割引、税金の軽減
受けられる助成や支援の内容は、お住まいの地域や身体障害者手帳の等級によって変わります。
詳しくはお住まいの地域の自治体にお問い合わせください。
- 医療費控除
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医療費控除は、1年間(1月~12月)に支払った医療費が10万円を超えた場合、超えた分の金額をその年の所得から差し引くことで所得税が軽減される制度です。
確定申告で手続きをすると、税金が還付される形で、支払った医療費の一部が戻ってきます。
手続きには、自己負担した費用を証明する領収書が必要となりますので、関連のレシートは捨てずに保管しておきましょう。また、通院にかかった交通費もメモしまとめておくと、忘れずに申告することができます。
医療費控除の対象となる項目の詳細は、国税庁のホームページなどで確認することができます。
詳しくは、お住まいの地域を管轄する税務署にお問い合わせください。
- 介護保険
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在宅療養をする中で、介護が必要だと認められた方は、必要度に応じて訪問やデイサービス、施設入所サービスなどを受けられるようになります。一般には65歳以上の方が介護を要する状態となった場合に対象となりますが、40~64歳の方でも、がんの進行により介護が必要になった場合には、介護保険を申請することができます。
介護保険サービスを受けるためには、事前にお住まいの自治体で、どの程度の介護が必要なのかの判定(要介護認定)を受ける必要があります。
判定された介護の必要度に応じた介護サービスを受けられるようになります。
詳しくは、お住まいの自治体の介護保険課または地域包括支援センターにお問い合わせください。
- 参考文献
- *1 国立がん研究センターホームページ:制度やサービスを知る「がんとお金」
(https://ganjoho.jp/public/institution/backup/index.html、2024年9月確認)
- *2 松浦信子、山田陽子著「快適! ストーマ生活―日常のお手入れから旅行まで 第2版」、医学書院、2019年
- *3 山﨑知子編「まず知っておきたい! がん治療のお金、医療サービス事典」、全日本病院出版会、2021年
- *4 国税庁ホームページ:No.1122 医療費控除の対象となる医療費
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm、2024年9月確認)